すきなもの

すきなものを、すきなだけ

Wienners『BURST POP ISLAND』感想

 なんか昔どっかの議員がワールドカップの応援してる人たちに向かって「他人に自分を乗っけんな」みたいな暴言を言っていた。応援してる人たちに対して向ける言葉としてはおかしいけど、用法を選べばわりと悪くはない。応援と依存の境目を明確にしておくことはオタク活動のリスク管理の中でも重要度が高い。ドブのように臭い息を吐きながらニヨニヨと気持ちの悪い笑みを浮かべゴキブリのように駆けずり回るオタクのぼくでも気をつけている。

 

 ぼくが中学生くらいの頃にはまあまあいたはずの、谷間の見える服を着て町中を闊歩するお姉さんが減った。今やそんなスケベな服を着てるのは顔を出さない裏垢女子くらいしかいない。しかしスケベな裏垢女子でさえも大抵は部屋で着てSNSにあげるに留まるので、いよいよ町中で見られる可能性は絶望的に低い。中学時代、文化祭に遊びに来てくれた教育実習の先生以来、そんなお姉さんは見ていない。本当はそれ以降も見たかもしれないけど、「教育実習やってたお姉さんが乳を出しながら中学の文化祭を見学しに来る」というイベントがセンセーショナルすぎて記憶に留まらないのかもしれない。ポスト文化祭は色を失った時代である。

 

 ああいうお姉さんが減ったのは、ぼくのような中学生の視線に耐えられなかったからなのだろうか。だとしたら大変申し訳ないことをした。やたらめったらスケベなお姉さんに憧れていたあの頃はもはやスケベなお姉さんに人生を乗っけていたといっても過言ではない。「おい!スケベなお姉さんに自分の人生乗っけんな」とあの議員なら怒ったかもしれない。

 

 「歌詞に共感できるんですよ~!」という街頭インタビューに憧れて、中高生の頃は恋愛ソングをわりかし聞いていた。恋愛ソングは乗っかるなんて一方的な気持ちではなく寄り添うみたいな双方向性を持った気持ちを歌っているので気持ちの悪いオタクには打ってつけのコミュニケーション教材であった。しかし実際聞いてみると、歌詞の内容にときめくとかそういうのは一切なく、楽しい感じのメロディーだから好きとか、切ない感じがするから好きとか、それぐらいの感想しか持つことができなかった。「おい!気持ちの悪いオタク!歌詞を理解しろ!人生とは乗っけるのではなく寄り添わせるものだ!」とあの議員なら怒ったかもしれない。

 

 Wiennersは恋愛ソングがない。少なくともぼくが恋愛ソングと認識している曲は一つもない。そもそも何の歌なのかわかってる曲がそんなにない。でも、音楽的な心地よさが前面に出ていて、楽しくて最高の気分になれる。BURST POP ISLANDのM2『MY LAND』はまさに「音楽そのものを心の底から楽しみたい」という各人に内在している欲求を解放する曲だと思う。さすがに恋愛ソング感情移入至上主義のあの議員も舌を巻くに違いない。

 

MY LAND

 

 

 新曲は以前に増して高濃度で鮮烈で血の滾るようなフレーズが多い。歌詞カードを見ているだけでもワクワクする。M1『ANIMALS』なんかはその筆頭である。人類の根源にある衝動を爆発させ野生の本能を呼び覚まさせるような熱いメロディ、生命・宇宙・繁栄・未来という全方位のキーワードを1つの曲に落とし込むスケールのデカすぎる世界観、まさに銀河系パンクバンドである。これを聴けばあの頃のスケベなお姉さんたちもかつての記憶を呼び覚まして乳を出し始めるに違いない。風邪を引いたり虫に刺されたりしない程度に頑張ってほしい。

 

ANIMALS

 

 毎度のことながらこのバンドのアルバムのイカしてるところの一つとして、アルバム全体で一つの大きな流れを持っているというのがある。特に今回は、ラスト3曲がクライマックスに向けて畳みかけるような構成になっていてすごくお気に入り。

M9『プロローグ』

M10『ゆりかご』

M11『FAR EAST DISCO』

の流れはコード進行でいうⅣ→Ⅴ→Ⅰだと思っている。「コード進行でいうⅣ→Ⅴ→Ⅰ」とは何かというと、名盤『CULT POP JAPAN』のM14『Hello, Goodbye』のラスサビ「ぼくは君だけに」などで使われている、強烈な終止感を生む進行のことである。

 ぼくは『プロローグ』~『FAR EAST DISCO』の終止感を味わうために、敢えて1曲単体リピートはせずにアルバム全体をリピートして聞いている。このアルバムは本当に全体構成がクールで緻密で隙が無い。

 

 

 Wiennersは相変わらず全身の細胞が生まれ変わるレベルのいい曲しか出さない恐ろしいバンドである。スケベなお姉さんが街から消えたポスト文化祭は、地球の平和を取り締まる警備隊によって完全に色を取り戻した。