WiennersのHello, Goodbyeが素晴らしいという話
BATTLE AND UNITY TOUR 2019のアンコールで、「Hello, Goodbye」を対バン相手とコラボしてやってたのを見て、改めてめっちゃいい曲だなと感じると同時に、「よし、コードをちゃんと勉強してこの曲の魅力を理解しよう!」と思い立ちました。
まずはコード理論を勉強するところから始めました。少し勉強したくらいでは全然知識と経験が足りなくて独力では解析しきれなかったので、詳しい友人にいろいろ教えてもらいながらやりました。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとう。
結論からいうと、めっちゃ難しかったです。「Wiennersの中ではオーソドックスな感じの曲だしいけるんちゃうか?」とか思ってたぼくがバカでした。でもめっちゃ勉強になりました。
以下が解析内容と感想です。めちゃめちゃ教えてもらった内容をさも自分の言葉であるかのように書いています。ご容赦を。
概要
〇 スケール
前半:Gメジャー
後半:B♭メジャー
〇テンポ等
BPM210 4/4拍子
〇その他
度数表記列の下段は、借用和音の借用先のスケールでの度数です。コード進行の雰囲気をつかむのに便利かなと思って載せました。
細かい用語の意味は下部にメモとしてまとめたのでよければご活用ください。間違ってたらごめんなさい。
いいなと思うところ・学んだこと
〇ド頭のG(Ⅰ)→B7(Ⅲ)→C(Ⅳ)の寂しさ
B7からEmで偽終止になるところ、めっちゃ寂しくなる。ドミナントセブンス(※1)の強烈な不安定さがよくわかる。この3つを聞いただけでかなり満足してしまう。もう参った!降参!お手上げです。
ⅢはⅥmに対するセカンダリドミナント(※2)であり、それに対して偽終止という考え方を使ってⅣを持ってくるという技術モリモリな感じ。いきなりつまずいて、ヒイヒイ泣きながら友人に教えてもらいました。
〇Ⅳ→Ⅳmのもの寂しさ
この進行この曲でめちゃくちゃ登場します。これがこの曲に寂しさを感じるポイントなのかなと思います。
〇2つの「ロマンティック」
ライブに行ったことのある人やDVDを見たことのある人なら気づいている人もいるかもしれませんが、一番の「君は素敵にずっとロマンティック」のところは、まちこ先輩(CULT POP JAPANに収録されているほう)とサエちゃんで弾いている音が違います。具体的には、ロマン『ティック』のところでまちこ先輩はソ、サエちゃんはソ#を弾いています。(上に載せた譜面では、サエちゃんバージョンになっています。)
たったこれだけの違いなのですが、理論的にはめちゃめちゃ話が変わってきます。
まちこ先輩の場合だと、ここでのコードはEm(Ⅵm)になります。これはGメジャースケールのダイアトニックコード(Ⅵm)なので、「Ⅲm7→Ⅵmという強進行ですね」ですんなり話は終わるのですが、サエちゃんの場合は少し違います。
サエちゃんがソ#を弾くことで、ここのコードはEmではなくE(Ⅵ)になります。Eは、Gメジャースケール・Eナチュラルマイナースケール・Eハーモニックマイナースケール(※3)・Eメロディックマイナースケール(※4)のどれにも出てこないコードです。
ではEは一体どういう機能なのか。
これについて2点書きます。
【Eはどのスケールから借りてきたのか】
まずはEがどこから来たのかについて解決します。EがドミナントになるスケールはAかAmです。EをAmからの借用和音として考えると、これを含む前後の流れはⅡm7→Ⅴ→Ⅲ♭(ツーファイブからの偽終止)となります。借りてきたのはEだけなのに、Eを含む一連の流れはAmスケールとしてパワフルなものになっています。
【メジャーキーでのⅥの使われ方】
次に、GメジャーにおけるE(Ⅵ)の立ち位置について触れておきます。Ⅵを何かのセカンダリドミナントとして考えると、Ⅵの次に来れるのはサブドミナントのⅡmかⅣです。そして、一般的にⅣの前に来れるのはトニックかサブドミナントなので(※5)、Ⅵを含む流れは次のようなパターンになります。
・Ⅰ→Ⅵ→Ⅱm
・Ⅰ→Ⅵ→Ⅳ
・Ⅳ→Ⅵ→Ⅱm
(Ⅰは代理コードのⅢm・Ⅵmでも可)
この曲の場合は、Ⅲm(Ⅰの代理)→Ⅵ→Ⅳなので2つ目のパターンです。
これらのことから、サエちゃんの「ロマンティック」はAmスケールとしても成立しつつ、Gメジャーとしても自然な流れを汲んでいることがわかります。まだ初学者なのでよくわからんのですけどなんかすごくないですか?これってよくある話なんですか?たった1音違うだけで理論的にめちゃくちゃ複雑な話になるのがめちゃめちゃ面白い。
バンドのバックグラウンドとかを踏まえた個人的な感想なんですが、SUPER THANKS ULTRA JOY TOUR 2018のツアーファイナルでサエちゃんが言っていた「いつまでも『あとから来た人』でいるつもりはないので」という言葉通り、ただ過去を踏襲するだけではないんだぞという挑戦的な姿勢がこの1音から見えるような気がします。(行き過ぎた深読みおたく)なんにせよ、過去があっての現在というかそれぞれの良さというか、そんな感じの何かがあってなんか好きなポイントですね。
〇変化を予感させる間奏のⅤ→Ⅲm
間奏の前半8小節ではⅠ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅴが繰り返されていますが、後半8小節はⅠがⅢmに変わっています。4つのコードのうち前2つがⅢm→Ⅵmとなり強進行になっています。変化を出しつつ強めの進行になっているのが「まだ続きがある…?」というワクワクを感じる理由なのかな~と考えています。
〇音数が減る転調の瞬間
上の譜面では表現しきれていないんですけれど、原曲では転調する小節でギターの音が少なくなります。GメジャースケールのメロディーにB♭スケールのコードを乗せることの違和感を抑えるためにあえて音数を減らしているのでは…?
〇「叶えてくれるかな?」
一番では「おいでよ もっと叶えてあげるから」だったフレーズが二番では「おいでよ もっと叶えてくれるかな?」に変わっていて、それに伴ってメロディーも変わっています。ここを一番と同じ歌い方にすると、おそらく「My love is only you」の進行が一番と同じⅤ→Ⅰとなってしまい、最後の「いつも大抵~」のフレーズにつなげられなくなってしまうので、メロディーが持つ曲をリードする力がここに表れているのかなと感じました。まだコード理論の勉強を始めたばかりでメロディーの仕組みにまで手を出せていないので、追々やっていけたらなと思っています。
〇二番の「My love is only you」の、もうひと山やってくる感
「My love is only you」は一番と共通のフレーズですが、コードの度数が異なります。『you』のところで一番ではⅠを、二番ではⅣを弾いています。一番の場合はⅤ→Ⅰというドミナントモーションで終止感が強く出ていますが、二番ではⅤ→Ⅳとなりその感じがありません。これによって、聞いている側が「一番と同じフレーズなのに終わらない…まだ何か来るのかな?」という期待感を覚えるのかなと思いました。
そして、Ⅳからは「君は素敵に~only 」の進行をもう一度繰り返し、最後の最後「僕は君だけ『に』」でⅠが登場し強烈な終止感がやってきます。二番ではしばらく偽終止もドミナントモーションもなかったので、ウワァーやっと来たあって感じ。あえて焦らしているのかしら。
〇後奏の寂しさ
「僕は君だけに」のあとのⅠ→Ⅱm→Ⅲm→Ⅲm7→Ⅵmって流れ、めちゃ寂しくなる。また会えるのに今日の別れを寂しく感じるあの気持ち。完全にあれ。
まとめ
なんとなく感じていた良さを理論的に理解することで、より一層この曲を好きになれた気がします。まだまだ勉強が足りないですが、これからも頑張ります。
ライブで最後にこの曲をやられると、最高潮に達した空気がシュワシュワはじけていく気分になります。その寂しさ、名残惜しさが「来てよかった、また来よう」「もっとこのバンドを応援しよう」って気持ちにつながっているような気がします。寂しさがありつつもどこか明るい響きがあって、優しい気持ちになれるとてもステキな曲です。みんな聞いて!!
メモ
ざっくりです。違ったらごめんなさい。
【トニック】
安定した響きを持つコード
スケールのキーやその倍音を含んでいる
度数でいうとⅠ(ⅢmとⅥmはその代理)
【ドミナント】
緊張感・不安感のあるコード
トニックに戻りたがる
度数でいうとⅤ(Ⅶm-5はその代理)
【サブドミナント】
半分安定・半分緊張って感じ
トニックにもドミナントにも行ける
度数でいうとⅣ(Ⅱmはその代理)
【ドミナントモーション】
ドミナントからトニックへ移行する進行
いい感じに締まる響きになる
【偽終止】
ドミナントからトニックの代理コードへ移行する進行
【強進行】
特定のコードから完全4度上または完全5度下のコードへ進行すること
ツーファイブとか
※1 ドミナントセブンス
「(度数)7」で書き表されるコード
トニックに一番戻りやすいコードみたいな感じ
トニックじゃないコードをトニックとみなしたときにドミナントにあたるもの
トニックじゃないコードの数だけセカンダリドミナントが存在する
※3 ハーモニックマイナースケール
ナチュラルマイナースケールの第7音を半音上げたもの
第6音と第7音との間が3半音開く(これを増音程という)
※4 メロディックマイナースケール
ナチュラルマイナースケールの第6音と第7音を半音上げたもの
ハーモニックマイナースケールの増音程が解消されている
最後の4音がメジャースケールと同じ全音・全音・半音の明るい響きになる
※5
サブドミナントに移れるのはトニックかサブドミナント。ドミナント→サブドミナントという動きはクラシック理論では認められない動き(ポップスでは存在するらしい)。